2013年10月8日火曜日

『コ・イノベーション経営』書評〜忘れ去られた学習の主役〜

2010年に亡くなった経営学の泰斗、プラハラード先生が書かれた『コ・イノベーション経営』を読み終えました。この書籍は2013年出版なのですが、この原著にあたるのが2004年に出版された『価値共創の未来へ』です。

2004年に書かれた書籍ですが、今でも色褪せず、むしろ、予言が当たったとも言える内容で、FacebookやTwitterを中心として、個人が力を持ち、企業への影響力を増していることが書かれています。そこでのキーワードが『価値共創』。

僕が属している組織・人事コンサル業界からも考えてみました。そのメモになります。

■結論:忘れられた学習者という主役
コンサル会社での消費者と考えた時、それは研修やコンサルティングを実施する先の会社の従業員・学習者になります。しかしながら、これまで僕がお会いしてきたのは経営者や人事の方々で、従業員や学習者との対峙はほとんどありませんでした。

価値共創というキーワードはこの矛盾に気づきを与えてくれました。

これからは、行動変容を求められている学習者に焦点を当てなければいけません。経営者や人事担当者が言う事を忠実に支援するだけではなく、学習者の状況や取り巻く環境を明確にし、学習者の支援にまわらないといけないと思います。

効果が出ない出ないと言われる所以はそこにあると思います。営業もコンサルタントもお金の出所である社長や人事にしかお会いしなかったのです。しかしながら、価値共創ができる相手は社長や人事ではありません。主役は現場の方々、受講者であり学習者の皆様です。

これを実現することが今後の課題かなーと思っています。

以下は、個人的なメモです。



■これまで事業の土台にあった発想
①あらゆる企業や産業は一方的に価値を創造できる
②価値はもっぱら製品やサービスの中にある

■トータルな共創関係「DART」
Dialogue(対話)
Access(利用)
Risk Assessment(リスク評価)
Transparency(透明性)

対話は知識の共有を促すだけではなく、企業と消費者が深い相互理解に到達するきっかけとなる。消費者が価値創造プロセスに自分たちの価値観を反映させる契機ともなる。所有から利用への流れは、消費者は製品を所有しない限り価値を享受できないとの考え方に挑むもの。消費者が価値共創に参加すると、製品やサービスの潜在リスクについてより多くの情報を求めるため、リスク評価の重要性が高まる。情報の透明性は、企業と消費者の間に信頼を築くうえで欠かせない要素である。

☆☆☆☆
これまでのコンサル会社は社長や人事といった限られた人しか対話を行っていないため、学習や行動変容が望まれる学習の声はおざなりにされてきた。利用については、研修納品という一時点でのサービスを所有すること。学習者が自ら主体性を持って、コミュニティを創造し活動を行うなら、本来的に言えば主体性の高い活動は誉められるべきだが、それが理論上正しいことを行っているかはしっかりとチェックする必要性がある。そういう意味では、コミュニティの目的を適切な形で設定し、不適切な活動についてはHere&Nowでフィードバックを行う必要性がある。

■消費者コミュニティのメリデメ
メリットは、消費者コミュニティが社内のR&D活動を後押ししてくれること。デメリットは、熱心だが未熟な消費者が野方図に動いて、品質や安全に責任を負わないままに、知らず知らずのうちに他の消費者の経験を台無しにしてしまう恐れがある。

☆☆☆☆
研修の何がわかりづらかったのか、どのような環境要因によって行動変容が妨げられているのか、は学習者との対話の中で原因が明確化し、新商品として生まれる可能性がある。熱心な学習者が研修の理解を誤っている可能性もあるし、行動変容によってネガティブに作用する可能性もある。

■経験環境の活性化を促進する5つのテクノロジー
小型化
環境センシング
組み込み知能
適応学習
ネットワーク・コミュニティ

☆☆☆☆
組織・人事コンサルティングに関連しそうなテクノロジーは、小型化、適応学習、ネットワーク・コミュニティだろうと思う。小型化ということで言えば、これまでのサービス提供の舞台は研修会場や顧客の会社そのものだったが、今はパソコン上で、スマホ上でのオンライン学習を可能にしている。また、組織開発という視点ではYammerなどの社内SNSというパソコン上で支援できる環境が整っている。また、カーンアカデミーのオンライン学習では適応学習のテクノロジーが使われている。学習者がどのような問題でつまづくか、何が正解かを分析し学習者に適切なカリキュラムが組まれる。ネットワーク・コミュニティはもう説明は不要。

■経験環境イノベーション促進のための4つの特性
きめ細かさ
伸展性
連携性
進化する力

きめ細かさとは、経験環境とのかかわりの度合いを顧客が自由に選び、その時々の好みの方法で経験に浸れるようにすることを指す。企業の視点からは、これはイベント(出来事)を土台にして経験環境をデザインし、消費者とさまざまな頻度や密度で交流する能力を意味する。伸展性とは、技術、チャネル配送方法などを活かして、既存の機能をもとにいかに新しい消費者経験をもたらすか、あるいは全く新しい機能をいかに生み出すか、という可能性を意味している。連携性とは、消費者から見て、いくつものイベント(出来事)がさまざまな方法で結びつく状態をいう。したがって、単一のイベントではなく、互いに関連するいくつものイベントが集まって、共創経験の質を決定づける。進化する力とは、共創経験から教訓を引き出して、それをもとに、消費者のニーズや好みに合わせて経験環境を進化させていくことをさしている。ただし本来、効率とイノベーションは対立関係にはなく、歩調を合わせるはずである。

■経営イノベーションと効率
イノベーションを重視していたとしても、えてしてイノベーションそのものよりも、それを効率的に進めるためのプロセスの開発に気を取られてしまう。そしてやがて例外なく、顧客のことを忘れて企業の論理にとらわれて、社内コンピタンスしか目に入らなくなる。

☆☆☆☆
組織の論理は『イノベーションのジレンマ』でも説明されていたように、組織の破滅をももたらすリスクを孕んでいる。貨幣経済、株主至上主義が効率性やコスト削減、利益率などの視野狭窄に陥れる。そして、変化に気づいた時には市場のルールは変わり、取り返しのつかない状況を生んでいるというもの。個人が成熟に向かいつつ有る中で、組織マネジメントもエンパワー、個人視点、ボトムアップといった組織文化形成を行う必要性があるのではないか。

■共創経験のパーソナル化を支える主な要素
イベント
イベントの文脈
各人のかかわり
各人にとっての意味合い

イベントが内容を指すとすれば、文脈とはいつどこでそれが起きたかを指している。これが経験の意味を決定づける。個人と各イベントとのかかわり合いは、多彩な製品、チャネル、サービス、相手企業の従業員、テーマコミュニティのメンバーなどとどう接するかによって、さまざまな形態をとる。各人にとっての意味合いとは、イベントがその人にどれだけふさわしいか、そこからどのような知識、ひらめき、楽しさ、満足、気分の高揚などがもたらされるか、を指している。イベントに殿程度かかわろうとするかは、人によって開きがあり、それに応じて意味合いも変わってくる。イベントの意味合いを考え考える際には、個人を発想の中心に据え、一人ひとりの重要性を忘れないようにしなくてはいけない。

☆☆☆☆
研修受講者の文脈からこれまで手伝ってきたという組織・人事コンサルティング会社はおそらくないだろう。個々の職場や上司の違い、仕事の違いなどは闇に葬られてきたといっても過言ではない

■MITのオープン・コースウェア
学生は自分たちの技能、知識、学習経験をもとに新しい教材を創り出した。MITの教育の真価は、教授が学生に伝える情報よりもむしろ、学習コミュニティのメンバーが行う意見交換や交流の質にある。学生は学ぶという経験、すなわち知識の共創に価値を見いだすのであって、その基礎となる商品やサービスは副次的な意味を持つにすすぎない。

☆☆☆☆
顧客の組織的課題に基づく議論を行うことで、顧客独自の教材=人材育成マニュアルができあがるか?研修やテキストに価値がなくなってきている、ということに気づかなければいけない。もっと、問題解決に踏み込むサービスが必要になってきている。コンサルタントも演壇にたって、皆から喜んでもらうといったマスターベーションから抜け出さなければならない。

2013年10月7日月曜日

学習者との共創環境をつくる②〜同志として学ぶ組織・人事コンサルティング〜

前回は、吉田松陰先生の教育への同志としてのスタンス、プラハラードの価値共創という概念を紹介しながら、学習者視点での教育の必要性を考えてきました。今日は、おぼろげながらでもその形態はどのようなものなのか?に迫っていきたいと思います。











 





【学習者視点の研修とは?孤独な学習から協働・切磋琢磨の学習環境へ】
これまでは研修という形をとってコンサルタントが教壇に立って講義を行い、グループディスカッションをファシリテーションする、その場限りの教育機会の提供にとどまっていました。また、そこには学習者の視点はほとんど含まれておらず、コンサルタントの論理で研修が運ばれていました。そこで、小生がおぼろげながらに考えているのが、SNSを使った研修事前事後フォローです。

具体的には、

①FacebookやGoogle+、社内SNSに専用グループを作成する
SNSには3つのAnyがあると思っています。Anytime、Anywhere、Anythingです。いつでも、どこでも、如何なるトピックス・テーマでもいい、いつでもコミュニケーションが取れるというのは特徴です。これまでの、研修スタート時点で初めてコンサルタントに会い、どんな人なんだろうと思いながら研修が進むより学習に臨むスタンスはよりよいものになるのではないでしょうか。

②研修前にSNS上にてコンサルタントと学習者が今の現状を共有し合うセッションを設ける
ここで、今回の取り組みの目的を共有し、個々人が研修テーマの課題をコンサルタントと話し合う。いきなり、研修!と言われるより、「終着点」と「現在地」の確認をすることでマインドセットが促進されます。

③研修後、数ヶ月間SNS上でのディスカッションを行う
単発の研修が一番意味がありません。人は忘れる生き物ですし、研修で学習したことを実践してこそ研修の価値が高まります。コンサルタントは研修中に定めた個人ごとの目標の進捗がどうか投げかけ、悩みを聞き、支援を行います。

「学習」を妨げる大きな要因は「孤独である」ということだと思います。学習の継続性には強いセルフ・マネジメント力が必要になりますし、それができる積極的学習者は組織全体の2割だとされていますから、共通の目的をもったコミュニティは非常に重要だと思うのです。そして、主体性を育むコンサルタントからの(他律的な)アプローチと、学習者の反復的実践が果てには主体的に問題解決に挑み、学習する習慣を創ります。


【SNS上でのフォローのメリット】
では、上記のような取り組みでどのような効果があるでしょうか。

■メリット①:個人の忘却曲線を超えていく
エビングハウスの忘却曲線でもそうですが、一度学習したことは時間が経つにつれて再現しにくくなります。頭でわかっていないことを、どう行動に移していくのか。この問題を解決するためには、継続的な学習はやはり重要です。

■メリット②:学習者の動機づけ
学習者と共にソーシャル上でも定期的に繋がることで学習への動機は高まります。主体性の高い人は、個人でどんどんと学ぶものですが、我々がお付き合いをしているのは主体的に学べない方が大多数です。コミュニティマネジメントを通して、その取り組みに目的を与えて皆で問題解決をしていくという結束を強化することができます。

■メリット③:主体的学習風土の醸成
ソーシャルのパワーはなんといっても、リアルタイムに、どこでも、いつでも、コネクトし情報を共有し合うことです。コンサルタントからの他律的な働きかけとSNS活用の反復によって、ソーシャルラーニングを促進することができるでしょう。この風土が醸成できれば、学習が個々人の問題解決の助けになるのだと理解し、そのSNS上のコミュニティはなくてはならないものになるでしょう。参考図書としては『ソーシャル・ラーニング入門~ソーシャルメディアがもたらす人と組織の知識革命~』が参考になります。

■メリット④:研修効果測定の恒常化
これまでの研修は、学習者のアンケートや事務局の反応までは確認しても、研修後の行動変容まではチェックを行わず、具体的な目的を見失っていたのではないかと思っています。個々人の取り巻く環境は多様であり、学習の進捗状況もマチマチです。行動変容のための個別・具体的な支援が求められていると思います。特に、中小企業は。

つらつらと書いてきましたが、これはあくまでも小生の仮説に過ぎません。SNS上のグループ、コミュニティがそこまで活性化しない、という事態もありえます。コミュニティマネジメントも今後の勉強領域として照準を定めていきたいと思います。

いかがだったでしょうか。

最近、ちょいと寒いですが、頑張って参りましょうー!

それでは!

2013年10月2日水曜日

学習者との共創環境をつくる①〜同志として学ぶ組織・人事コンサルティング〜

吉田松陰は松下村塾において「共に学ぶ同志」として教鞭をふるう、という教育スタンスをとっていました。

教育というとなんだか、教える者-教わる者という二項対立の構図が成り立ってしまいますね。これは、組織・人事コンサルティングも同じです。コンサルタントは先生として扱われます。こちらが料金を頂戴しているのにも関わらずです。

同志として学ぶコンサルティングは可能でしょうか。そして、そのニーズはあるでしょうか。今回はそんなことを考えてみました。

















【プラハラードの価値共創という概念】
プラハラードは2004年に出版した『価値共創の未来へ』において、「価値共創」というキーワードを提示しています。これは、製品やサービスを生み出してた企業→それを消費する消費者という構造から、企業と消費者がまさに価値を共創する時代にはいったことを主張した書籍です。

価値共創とは、
個々の消費者と有意義な(その消費者にとって有意義な)交流をし、その交流を通して価値を生み出していく営み
と定義されています。

もう少し具体的にその背景を追っていくと、
 技術の融合が進み、業界の垣根が低くなる一方で、消費者が情報武装して積極性を増し、ネットワークを介して互いに結び付きを強めている、事実だった。これらの動きに引っ張られるようにして、消費者は企業や価値創造プロセスへの影響力を強めている。その結果、企業と消費者の役割分担が曖昧になり、両者が価値共創に取り組み始めている。
とのことです。

これについては、ソーシャルメディアを思い浮かべてみるといいと思います。Twitterでは一日に何億ものつぶやきをし発言権を強めている一方、企業はその消費者の声をビックデータという形でマーケティングや問題解決に活用をしようとしています。ある企業では、本当に消費者との結びつきの中で商品開発を行っていると聞きます。

また、最近はやりのエスノグラフィーやデザインシンキングの視点においても「人間視点」というキーワードが頭に浮かびます。

要は企業の論理から消費者の論理が通用し、力を強めてきているということですね。


【組織・人事コンサルティングの実態】
組織・人事コンサルティングといえば、冒頭でも書いたように今でも企業中心の論理がまかり通っています。組織・人事コンサルティング会社の多くは教育研修という手法を使って売上をたてています。そこでは、コンサルタントが教壇にあがり、勝手に人事と話し合って決めた教育研修プログラムを粛々と行い、現場に活かされていないという理由で、またその研修対象者は非難の的になるのです。

ここに社員ひとりひとりの意思はあるでしょうか。

はい、まったくないと言っても過言ではないですね。

もちろん、学びたいことがあるなら勝手に学べる環境は整っています。ただ、組織に属している限り社員のひとりひとりはその場所での自己実現は願っている訳であり、経営もそこに対しての一定の責任は負わなければいけないと思います。

【できる限りの個々に適切な学習環境を】
何を言っているのだ、プラハラードが言っている「価値共創」は主にBtoCの場合に限ってだ!というみなさんの声が聞こえてきそうです。

もちろん、僕自身社員ひとりひとりがやりたいことを作ろう、一緒に価値を作るんだ!などとは言っていません。組織に属している以上、ある程度組織の論理にはめられてしまうことは確かでしょう。ひとりひとりが自由に仕事をして生きていけるのではあれば、皆が個人事業主や起業という手段を使って活き活きと仕事をしているはずです。

ただ、前回のブログでも書いたように、これからは「主体性」の時代だと思っています。だからこそ、最大限、社員の意向を尊重し、社員が必要としている学習を届けたいと思うのが僕の切なる願いです。

ちょっと長くなりました。

次回は同志として学ぶ組織・人事コンサルティングというものを考えていきたいと思います。

それではまた次回!

人生を決めているもの。住宅と街並みとぼくの視線から考える人生論。

  家づくりを検討しはじめて約2ヶ月。あれだけ回避していたローンのリスクを受け入れて、家を建てることに決めた。日本の一戸建ての寿命が30年のところ、90年もつ家を建てることを知ったのが大きなきっかけだった。90年もてば3歳の息子も死ぬまで住むことができるだろう。それならローンを組...